魔界の月TOP東屋小説TOP未熟な翼2


その頃、人々の間で或る決断が密かに下されようとしていた。

この場合「人々」というのは、ハトルのような混血や、シュアールのような異能力族を除いた残りの大多数・・・つまり特殊な能力を持たぬ人間たちのことだ。
彼らは、自分たちを「真っ当な人間」と呼び、それ以外と区別していた。
自分たちよりずっと長く、異なる時間を生きる混血。
いずれ天界か魔界どちらかふさわしい世界へ去る者たち。
彼らは別の生き物だ。その意識は、鹿や熊など獣に対するものに似ていた。
「言葉は通じる」けれど、別の生き物。

一方、異能族。
この一族に対する「人間」たちの思いは、全く異なる。
混血の一部に対しては、畏怖とも呼べるある種憧れの混じった感情。
だが異能族に向ける感情は蔑みに近いものだった。
個々により異なる能力を持ってこそいるものの、他の大部分において「普通の人間」より劣っていたからだ。
先ず、決定的に寿命が短い。
比例するように体力もなかった。
異能族の多くが長くは生きられなかった。
早くからその能力が活かせる職業に就き、働いて働いて酷使されて、燃え尽きるように死んだ。
そんな人種を「使い捨て」とみなして売買する輩も居る。
己の存在意義を考える暇もなく、彼らは生まれては死んでいった。
「混血」とは違い、「異能族」は「突然変異」の生まれが殆どである。
侮蔑の対象とされる異能族が血縁に生じることは「恥」、としながらも「人間」たちは彼らをよく利用した。便利だったのだ。

世界は狭く、彼らはそんな微妙な均衡の中に居た。
天使に近い混血。悪魔に近い混血。特殊能力を持つ弱い人間。
何の力も持たないが絶対的な数だけは多い「普通の人間」。

そしてその数多い集団が、声を上げた。

「いつまでも虐げられていることはないじゃないか」

声は最初、小さなものだった。
ふとした誰かの愚痴。不満。鬱憤。
そんなものだった。
それに共感する人間が居た。
彼らは結束が固くなった。
彼らの周囲に、更に同じ意見の人間が居た。
彼らは小さな集団になった。
小さな集団は個々に思いを語り始めた。集団の外でも。
結果、少しづつ意思は拡がり出した。
そして集団の外で小さな集団が出来、小さな集団同士は繋がりを持ち、どんどんと膨れ上がっていった。

何故、自分たちはこんなに「奴ら」に脅かされて生きているのだ?
人間の世界は人間のものじゃないか。
これ以上追従する必要が何処にある。
連中は長命だ。今に彼らは倣岸になり増長し始めるだろう。
そうなってからでは遅い・・・。

賢明な少数の人々は異議を唱えた。
彼らは決して驕り高ぶってなどいないではないか。
我等が勝手に祭り上げ、結果虐げられているように感じているに過ぎない。
これまでと同じように受け入れて共に存続すれば良いことだ。

しかし、多くの世の習いと同じように、少数意見は偉大なる進歩へは至らなかった。それらの多くは踏みにじられた。

連中・・・つまり天使と悪魔は我々なしでは生きてはいけないのだ。
天使は人間に奉仕することを任務とし、悪魔は人間を誘惑することで繁栄している。
つまり、我々の方が立場的には強いことになる。
それなのに、ここ数十年というもの、人間は本当によく耐えた。
これ以上「あいのこ」を、野放しにすることもないじゃあないか。ちゃんとどっちかに引き取ってもらおう。
どうせあと数十年もすれば「あいのこ」なんて居なくなる。
それが少し早まるだけだ。連中にとっては痛くも痒くもないさ。
だが奴らに比べて寿命の短い我々には、その数十年が苦痛だ。
自分たちにも子孫が生まれ、育っていくというのに、何も「混血」の面倒まで見ることはないじゃないか。

それが世論の大半だった。少数派は声を閉ざされた。

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