形の良い阿弥陀丸の鎖骨を、唇で追う。
いつだったか、阿弥陀丸の胸で子供の様に泣き喚いたことを思い出した。
いつもと逆だ、と心の中で苦笑しながらも涙は止まらず、俺は阿弥陀丸
の胸から這い出ることができなかった。

――――今も同じだ。格子無き檻の中で、息を潜めている・・・

勃起したまま硬直した乳首が、妙に鮮やかに紅い。
愛撫する必要もなく勃っているそれを見て、疲れた笑みがこぼれた。
それでもその突起が愛しい。
指でつまみ、舌を絡ませる。
舌は腹筋を通り臍へと移動する。
細い腰骨を指の腹で撫で、男根を口に含んだ。
舌で転がすような愛撫が、あいつは好きだった。
阿弥陀丸がよく俺にしたように、内股に痣をつける。
力を入れすぎたのか、赤い痕ではなく、内出血の青が目に染みた。
弁慶の巨きな刀傷を、割れた足の爪を、筋張った上腕を、
柄を握る形に硬直した左手を、丹念に舐め上げた。
挿入も試みたが、すでに硬くなった阿弥陀丸の身体は、
俺のものを拒絶した。力任せにすれば或いは可能だったかも
知れないが、これ以上こいつの身体に傷を増やすのは嫌だった。
俺はただ、両腕でその冷たい身体をかき抱いた。
死臭が鼻腔をつき、そこだけ柔らかい白髪が頬に触れ、
硬い屍体がぎしぎしと啼く。
頭が割れそうに痛む。涙腺が俺を苦しめる。
俺は嘔吐し続けた。

一握りの遺髪を赤い組紐――阿弥陀丸はいつもこの紐で髪を
結っていた――で括り、懐にしまい、俺は黙々と穴を掘る。
夜明け前の、太刀で切れそうに静まりかえった空気の中、
阿弥陀丸の野辺送りをした。
結局俺は、やつの瞼を閉じてやることができなかった。
再び瞬くのではないか、俺を見るのではないか。
・・・子供染みた浅はかな期待は、最初から持つべきではないと自嘲する。
開いた瞳に土をかける。無意識に子守唄を歌っていた。

盛り土に折れた春雨を突き刺し、墓標にする。
これは阿弥陀丸の得物であって、俺のではない。

数年を過ごした掘っ立て小屋に火を放つ。
赤い炎が空を焦がし、明け方の天に灰が昇っていく。
この煙が阿弥陀丸の道標になることを祈り、この炎が正当な復讐に向かう俺の送り火となることを願う。

鉈を手に歩き出す。この場所に帰るつもりなどなかった。


『侍よ、眠くなったか 涙に暮れる我の想いが風に舞い そなたに届からんことを・・・』


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