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その頃、人々の間で或る決断が密かに下されようとしていた。 この場合「人々」というのは、ハトルのような混血や、シュアールのような異能力族を除いた残りの大多数・・・つまり特殊な能力を持たぬ人間たちのことだ。 彼らは、自分たちを「真っ当な人間」と呼び、それ以外と区別していた。 自分たちよりずっと長く、異なる時間を生きる混血。 いずれ天界か魔界どちらかふさわしい世界へ去る者たち。 彼らは別の生き物だ。その意識は、鹿や熊など獣に対するものに似ていた。 「言葉は通じる」けれど、別の生き物。 一方、異能族。 この一族に対する「人間」たちの思いは、全く異なる。 混血の一部に対しては、畏怖とも呼べるある種憧れの混じった感情。 だが異能族に向ける感情は蔑みに近いものだった。 個々により異なる能力を持ってこそいるものの、他の大部分において「普通の人間」より劣っていたからだ。 先ず、決定的に寿命が短い。 比例するように体力もなかった。 異能族の多くが長くは生きられなかった。 早くからその能力が活かせる職業に就き、働いて働いて酷使されて、燃え尽きるように死んだ。 そんな人種を「使い捨て」とみなして売買する輩も居る。 己の存在意義を考える暇もなく、彼らは生まれては死んでいった。 「混血」とは違い、「異能族」は「突然変異」の生まれが殆どである。 侮蔑の対象とされる異能族が血縁に生じることは「恥」、としながらも「人間」たちは彼らをよく利用した。便利だったのだ。 世界は狭く、彼らはそんな微妙な均衡の中に居た。 天使に近い混血。悪魔に近い混血。特殊能力を持つ弱い人間。 何の力も持たないが絶対的な数だけは多い「普通の人間」。 そしてその数多い集団が、声を上げた。 「いつまでも虐げられていることはないじゃないか」 声は最初、小さなものだった。 ふとした誰かの愚痴。不満。鬱憤。 そんなものだった。 それに共感する人間が居た。 彼らは結束が固くなった。 彼らの周囲に、更に同じ意見の人間が居た。 彼らは小さな集団になった。 小さな集団は個々に思いを語り始めた。集団の外でも。 結果、少しづつ意思は拡がり出した。 そして集団の外で小さな集団が出来、小さな集団同士は繋がりを持ち、どんどんと膨れ上がっていった。 何故、自分たちはこんなに「奴ら」に脅かされて生きているのだ? 人間の世界は人間のものじゃないか。 これ以上追従する必要が何処にある。 連中は長命だ。今に彼らは倣岸になり増長し始めるだろう。 そうなってからでは遅い・・・。 賢明な少数の人々は異議を唱えた。 彼らは決して驕り高ぶってなどいないではないか。 我等が勝手に祭り上げ、結果虐げられているように感じているに過ぎない。 これまでと同じように受け入れて共に存続すれば良いことだ。 しかし、多くの世の習いと同じように、少数意見は偉大なる進歩へは至らなかった。それらの多くは踏みにじられた。 連中・・・つまり天使と悪魔は我々なしでは生きてはいけないのだ。 天使は人間に奉仕することを任務とし、悪魔は人間を誘惑することで繁栄している。 つまり、我々の方が立場的には強いことになる。 それなのに、ここ数十年というもの、人間は本当によく耐えた。 これ以上「あいのこ」を、野放しにすることもないじゃあないか。ちゃんとどっちかに引き取ってもらおう。 どうせあと数十年もすれば「あいのこ」なんて居なくなる。 それが少し早まるだけだ。連中にとっては痛くも痒くもないさ。 だが奴らに比べて寿命の短い我々には、その数十年が苦痛だ。 自分たちにも子孫が生まれ、育っていくというのに、何も「混血」の面倒まで見ることはないじゃないか。 それが世論の大半だった。少数派は声を閉ざされた。 |
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