- Prologue - (ユルグの場合)

灼熱の砂漠に身を置くことが、快感だとは誰も言わない。
しかし快楽を求めない生き物も居る。ひねくれきった悪魔だ。
悪魔は好きなように生きて、好きなように死ぬ。
自分の存在意義や存在価値を疑問に思ったりはしない。
誰かから批判や非難を受けることすら、思考の中には具体的な形がない。
「そのこと」について、彼らは「考えたり」はしない。

無口な悪魔・・・と、誰かが言い出した。

話すことは、やめた。
誰かに何かを語ることなど放棄した。
「彼」は真っ黒に焦げて死んでしまった。
想い出を持つ感傷的な悪魔は稀少である。稀有である。
「想い出」というものには意味がない。腹は満たないし快楽は目の前に求めた方が早い。
そしてユルグの抱いている想い出は、「快楽」とは縁の遠いものだった。
ユルグの中で「彼」の想い出は不幸だった。不快だった。
何かを望んでユルグは、転生を願った。
しかし、それすらも何の意味があるのか、もう解らなくなっていた。
自分はいったい誰に、何をするつもりだったのか。
何かを・・・伝えたかったのか。
それが解らない以上、誰とも話す気にはなれなかった。


- 本編 -
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